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末期がんの医師・僧侶のお話 [長く生きてりゃ・・・]

あと半月余りで新しい年を迎えます。
毎年この時季になりますと喪中葉書が届きます。
今年も14人の友人・知人から送られてきました。
自身も身内を亡くし今年は喪中です。
人は、必ず亡くなります。
それがまだいつかわからないため、のほほんと生きていますが、
自分の死があと3か月もしないうちにやってくると、
はっきりわかっている人の講話をこのたび聞いてきました。
このかたは医師と僧侶の二つを掛け持ちしておりますのでとても説得力があります。

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では・・・。

◆◆◆

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講堂

気まぐれ日記2015,12,14

 知人の僧侶から、いい講話があるから出席してみないか? と勧められ東京板橋区常盤台にある真言宗寺院・安養院へ向かう。


 先月3日に落成慶讃法要があったばかりの当院講堂で田中雅博師による特別講演「仏教と医療の再結合」を拝聴する。聴講者の8割方は僧籍にあるか、その修練中の学生であった。
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正面ステージには金色の薬師如来像が

前日のお誘いだったため、講師の人物像についての下知識なしで出席したのだが、師の開口一番の自己紹介に驚いた。


正面スクリーンに映し出された「すい臓がん患者の余命」という生存率曲線の一点を指さしながら「わたしの余命は、今この部分にあります」という。それは、あと3か月にも満たないところを指さしたのである。
また、「もう抗癌剤の副作用がひどくなり、効果は期待できなくなっています。もう少しで死ぬことを直視しています。人の死は思い通りには行きませんね。わたしも順番が来たわけです」とにこやかに語る。この冷静さは御身を僧籍に置く者の業なのかと感服する。

 田中師は現在、栃木県の益子町で1300年近い歴史をもつ寺・西明寺の住職だが、東京慈恵会医科大学を卒業後、国立がんセンターで進行がんの専門医として働き、同センターの内分泌部治療研究室長も務めていた。しかし83年、寺を継ぐため退職。大正大学で仏教を学び僧侶となったという変わった経歴を持つ。90年以降、境内に診療所を開き医師も続けている。つまり僧と医師を兼業しているわけだ。そのご本人がこともあろうに進行がん(膵臓癌)になられるとはなんの因果か、誠にお気の毒である。

 かつて病院勤務のころ多くの癌患者さんから「私は死ぬのでしょうか? 怖い」と問われて、応えられなかった。そうした苦るしみに応える人が病院にはいない現実。医学は、科学(臨床実験データ)に裏打ちされた延命処置はできるが、残された命をどう生きるかという問題には全く役に立たないことを知った。で、かれは、死にゆく人のspiritual care(精神的な援助・介護)がいかに大切かを知り、以後30年間その必要性を提唱し続けてきた人だ。

 生きられる時間の長さだけでなく、生きられる時間の質的内容の重要さを厚っぽく語った。医学の限界を超えたSpiritual pain(医学用語で「自分が死ぬという苦」、または単に「命の苦」ともいう)の専門家が必要だと説いている。この分野は哲学や心理学の領域のようだが師は、「人文学の領域と表現し、とくに古典のなかに答えがあるという。なぜなら古典の長所は非科学の部分だからだ」と。

 つぎにかれは、欧米の多くの病院にはこれに対応する専門職があることを語った。
欧米では、聖職者がその役を担っているところが多い。しかし、けして布教はしないルールがあるとのこと。しかもイタリアのspiritual care従事者は死期が迫ってからではなく入院と同時に(僧衣ではなく白衣を着て)会いに行く。かれらは自由に病院に出入りすることができ、本人の自由意思を尊重し、患者から求められれば手助けするといった活動をしているとのことだ。

 この場合spiritual care従事者は、自分の宗教や考えは押し付けず、患者の話を聞くことに徹し、命がなくなる苦しみを分かち合おうとつとめる。どんな人生でも肯定し、自身の価値をみいだすよう促す。人間の尊厳にかかわる仕事だという。したがってspiritual careに当たる人は、宗教だけでなく、哲学や医療などもしっかり勉強していること。知識があるだけではダメで、人格的にも優れていなければならないと条件は厳しい。

 また「欧州では哲学者畑の人もいるけれど、仏教は私たちの死生観に何らかの影響を与えているから、日本では仏教の知識が欠かせないであろう」と述べた。したがって仏教僧がその一役を担ってほしいと、かれは熱く語る。

最後に日本人によく知れわたっている「般若心経」は、spiritual careの経典だ!と言った。帰宅後、読み返してみると少々難解ではあるがそのとおりであった。難解な部分をもっとわかりやすく患者に説けばおおいに役立つと感じた。

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田中師の近著『般若心経の秘密』
 ※表紙の菩薩が女性として描かれているのには意味があります。
 般若心経の「般若波羅密多」は、智慧(般若)の完成(波羅密多)という理想の女性パーラミータ(女性名詞)なんだそうです。

 表題が「仏教と医療の再結合」とあったが、無神論者を気取る門外漢の自分には「医療と仏教の連携」または「医科学と東洋哲学の融合」のほうがしっくりいくような気がした。


 なにはともあれ日本の医療は世界一と言われる中で、この分野がとても遅れていることをはじめて知って驚いた。少しずつ広まってはいるようだが一日も早く欧米並みになってほしいものだ。

以上が余命数日に迫った田中雅博師の講和内容と自分の感想である。

凡人の自分も心臓に欠陥を持ち来春再手術といった状況にある。この日も胸部にホルター(24時間装着の心電図機器)を装着しての受講であった。施術が成功したとしても死は近々現実のものになる。よってspiritual care従事者の手助けを借りなくてもすむように今まで以上に古典を読み、その日に備えようとおもう。


 今年は慰問を続けている老人ホームで親しくしていた老人の最後を看取った。会話ができなくなってからはベッドの前で、こちらがおどけた踊りや昔の歌を歌って聞かせるとニコッと微笑み返しをしてくれた。これがこの老人の末期におけるたったひとつの意思表示であった。わたしも笑顔で彼岸に行きたい。[サッカー]

[参考]
 イタリアの法律では病床100床ごとに一人、スピリチュアル・ケアワーカーの配置義務がある。哲学等の専門家もいるが、そのほとんどがキリスト教の神父。ケアワーカーの資格を取るには哲学を2年、神学を4年、医療を2年、計8年学ばねばならない。その後病院などに勤務して先輩から実地指導を受ける。(出典=上記『般若心境の秘密』)


 




タグ:講和
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コメント 10

green_blue_sky

今年は喪中のはがきがなく、ほっとしている年末です。
by green_blue_sky (2015-12-19 07:23) 

般若坊

今年は10枚近い喪中はがきをいただきました。
幸い同年本人達からの喪中葉書はありませんが、世代交代を感じさせます。
我々の年になると、我々の年代より下のご兄弟の喪中が目を引くようになりました。
明日は我が身・・・と気を引き締め、毎日を精一杯生きようと思います。
by 般若坊 (2015-12-19 09:49) 

夏炉冬扇

今年も訃報いくつか。南無阿弥陀仏。
by 夏炉冬扇 (2015-12-19 19:40) 

侘び助

今年も数枚手にした喪中葉書、私もその身です。
傘寿を迎え彼岸の路も近くなっていきます。
独り身になり遍路を体験(四国88ヶ寺・100観音・別格20ヶ寺)
逝く途に安堵はしていますが・・・その時は心安らかで居られるか
自問する日々です。
by 侘び助 (2015-12-19 21:20) 

Chobi.H.YAOITA

「縁起でもない」という理由で
封じられてきた話題ですが
最後まで生き切るためには必要な話だと思います
by Chobi.H.YAOITA (2015-12-19 22:32) 

JUNKO

いいお話を聞かれたのですね。その一端を聞かせていただきありがとうございました。
by JUNKO (2015-12-20 19:49) 

ぼんぼちぼちぼち

余命三ヶ月弱の先生のお話、説得力ありやすね。
誰にも必ず死は訪れるわけで、そういった意味からもすべての人に聞いてもらいたいでやすね。
ともあれ暁烏さんの心臓の手術、無事に成功されることを祈ってやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2015-12-21 14:14) 

ゆきち

医師と僧侶、両方を経験されている方ならではのお話、心に迫るものがありますね。古典、読んでみようと思いました。
by ゆきち (2015-12-21 22:28) 

よしころん

「もう生きるのにも飽きたわ~」昨年107歳で亡くなった祖父がしみじみと言った言葉です。
朝目覚めると指先を動かして、「あぁまだ生きとるわ。」と思っていたそう。
わずか3歳で天涯孤独となった祖父。
初孫だった私をそれはそれは可愛がってくれました。
生きること、死ぬこと、その身をもって教えてくれた祖父でした。
by よしころん (2015-12-22 11:58) 

馬爺

生きる望みが無くなると後は何事も無に考えて生きてゆくしかないですかね。
人間に生きて行く上では欲が出ますが欲を失くさば無になれるんですね。
明日には紅顔ありて夕べには白骨路慣れる身なり
by 馬爺 (2015-12-22 21:01) 

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