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NO.25 旅の職人 その⑪ 泡おどり [人生とは死ぬまでの暇つぶし?]

[るんるん]踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら 踊らにゃ 損 損

おなじみの阿波踊りの歌詞です。

きょうは、踊ったほうが阿呆なのか? 見ている方が阿呆なのか?

スター気分で歌い、踊りまくった徳島の夜・・・・阿波おどりが「泡おどり」と化したお話です。

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SS阿波おどり2雅印入り.jpg
 
本文に合わせて描いてみました。

                        泡おどり

   「間違いない。めちゃめちゃ老けているけど彼です」
 かつてはサッカー日本代表の背番号10を背負い、現在もビーチサッカーの日本代表監督として活躍するラモス瑠偉氏(56)が11月14日、TBS系の情報番組「朝ズバッ!」で放映されたインタビューで、男の顔写真を見るなり声のトーンを上げた。
 
  画面に映し出された男は、11月14日長野県警に逮捕された長野県建設業厚生年金基金(長野市)元事務長、坂本芳信容疑者(56)だ。この男、基金の掛け金約23億8,000万円のうち約6,400万円を着服したとして捕まった。約24億円の使途不明金の行方が注目される中、ラモスが同容疑者とかつて親しい関係にあったことを明かした。
 
 2008年、六本木のクラブで「『社長さんで、お金持ち』と知人に紹介されたのがきっかけで坂本容疑者がタイに逃亡するまでの2年間、高級クラブやレストランで振る舞い酒を戴いた。一緒にハワイまで遊びに行ったこともある (サンケイスポーツ)とのこと。

 この記事を読んで、あれっ、と忘れていた事件を思い出した。20代、この自分にも似たようなことがあったからだ。
 四国徳島の阿波踊りを見物する団体旅行のときだった。この団体は、都内の金融会社の預金者で構成されたグループ。同僚Kの顧客だったので、自分は気楽な応援添乗だった。お客さんの数が100人くらいだと一人でご案内するのだが、お祭り見物の場合は、混み合うので複数の添乗員で実施する。演舞通りの桟敷席までご案内すると、あとは終わるまで添乗員はフリーとなる。

 そんなとき、団体の幹事Dさんから、こんな暑くちゃ見物どころじゃない。どこか涼しい所へ案内してくれ! と注文が入った。
 このDさんは、歳の頃35歳前後で背は高く、なかなかの男前。外見はアクション映画の俳優のようだった。身につけているスーツや腕時計も高級ブランド製品ばかり。足のつま先から、頭のてっぺんまで隙のないいでたちだった。 
 
 わたしたちが案内したのは、大きなキャバレーだった。専属のバンドが入り、中央にはダンスができるフロアーがある。当時のキャバレーの定番である。祭りの最中にキャバレーに来る客は少ない。30人くらい居るホステスはみな手もち無沙汰であった。Dさんは「今夜はきみらの慰労会だ。好きなことをしていいぞ」といってくれた。わたしとKは、社でも芸達者という評価を受けていた。こんな時は大ハッスルである。
 
 Dさんは、店に入るなり支配人を呼んだ。
「ここにいる他のお客さんをすべて出してくれないか」と威圧的に言う。
当然のことのように支配人は断った。
「ただで客を帰せとは言わない。店にもそれ相応なことはする」といって、支配人の掌にさっと一万円札を握らせた。つづいて客の人数分として10万円近くを手渡した。つぎにバンドマンやボーイにも気前よくチップを渡した。
  
 Dさんは都内中小金融会社の係長。だが、世田谷生まれの大地主の息子だけにお金は使い放題。だから出世欲はないのだろうと推察した。 
「さ、これでよし。あとは好きなようにやれ」といわれ、“待ってました!”とばかりに立ち上がったのは同僚のK。なんの躊躇もなくステージの中央に進み出てマイクを握った。
「徳島のお姉さま方、こんばんは。今宵はわたくしが申すまでもなく、外では街中”ぞめき”でございます。それにも拘わらず逸(はや)る気持ちを抑え今宵も普段通りのお仕事に励むホステスさんには、まこと、頭が下がります」
 と切り出した。つづけて
「夜のお仕事のみなさま方には、ゴールデンタイムといわれるテレビ番組をご覧になる機会がなかなかないと思いますから、ちかごろ売り出している歌手・暁烏 英をご存じない方が多いかと存じます。きょうは、プロダクションの社長さんとともにお忍びで徳島にやってまいりました」

 係長の肩書は、プロダクションの社長に変わった。スポンサーに対するKのヨイショである。
「新曲については、楽譜を持ってきておりませんので、バンドのみなさんがお困りと思います。そんなわけでみなさまよくご存じの曲を選んでこれから数曲歌わせていいただきます」

 Kは、隣県高松の出。徳島の方言を巧みに交えながらホステスたちの心をサッとつかんだ。
 阿吽の呼吸といおうか、Kとわたしはどこへ行っても台本なしのアドリブで人を笑わせていたから、緊張感などまるでない。かれの話術に聞き入っているホステスをしり目に、こちらはすばやく4、5曲持ち歌をメモしてステージのバンドマスターに手渡した。カラオケなどない時代だったが、添乗員は宴会場でいつも歌っている。プライベイトでも新宿のゴールデン街や神田のバーで流しのギターに合わせ歌っていたから、年季十分だ。こちらも、新人歌手になりきって歌った。だれひとりニセモノと気付かなかったようだ。
 
 最後は、Kの「さあ、みなさん! 外に負けずに踊りましょう」の声に、(洋楽のお囃子ではあったが)ホステス、ボーイ一同阿波おどりで店内はおおいに盛り上がった。しかし、ここは水商売の世界。薄暗いネオンの下での踊りだけに“一丁回り”に似たわびしさも感じた。
この夜Dさんは、わたしたちのアドリブ芸に感心し、ひどく喜んでくれた。
 
 旅行が終わった後も、銀座の夜にお誘いがかかった。いつも2,3軒のはしご酒であった。
 そのご、自分は地方へ転勤になりKと疎遠になってしまったが、数年後、再会する機会があった。当時の話に盛り上がったのだが、そのごのDさんにはつづきがあったことを知る。

「Dさん、いまは少し偉くなったかねえ?」
「それがね、あのあと一年くらい経ってから昼ひなかにパチンコ屋にいる彼を偶然発見したんだけれど、キリギリスみたいだったよ」
「・・・・・・?」
「じつはね、会社クビになったんだ」
「なぜ?」
「使い込みがばれちゃったんだってさ」
「え~っ!」
 返す言葉もなかった。横領犯のバブル絶頂期にそうとは知らず踊った添乗員二人。あれは阿波おどりではなく「泡おどり」だったようだ。

文頭に記したラモス瑠偉氏の心境もこの時のわたしとたぶん同じであろう。[サッカー]

[意訳]
1、ぞめき : 騒がしい、がやがやしたもの。阿波おどりでは、演奏される代表的な曲として「ぞめき」「吉野川」「阿波よしこの」「祖谷の粉ひき唄」「阿波の麦打ち唄」などがあるが、阿波おどりのお囃子(唄、締め太鼓、笹笛、鉦鼓、三味線などの伴奏)を総称して「ぞめき」と 呼んでおり、これには確かな定義がある訳ではない。  
2、一丁回り : きらびやかな照明(演舞場)のなかで踊る阿波踊りとは対照的に、路地裏をほの暗いぼんぼりと提灯の薄明かりだけで踊りながら流す阿波踊り。幻想的な雰囲気が醸し出される。阿波おどりの原型を彷彿させる踊りである。

[後記]旅の話は尽きないのですが、そろそろ飽きが来るころと思いますので次回からは少し内容を変えたものを書きたいと思います。


タグ:紀行文
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谷津ひろし

①阿波踊りの絵 上手ですネ。なかなかいいです。
②20歳代から歌手暁烏・英で唄ってたのですね・
 キャバで 4,5曲は何を歌いましたか?
③大地主の息子が何故使い込み・・・?
④昔のキャバレイ 懐かしいです。
⑤実話 迫力あり楽しかったです。一気にに読みました。
⑥添乗員シリーズ 楽しいですが、・・・。
⑦悲喜こもごものノンフィクションドキュメンタリーがいいですね・・・。
by 谷津ひろし (2013-11-30 10:02) 

チョビ(H.YAOITA)

芸達者、羨ましいです
そのステージ見たかったな~(笑)
面白いお客さんはまだまだいますよね
他のシリーズの後、またお願いしますね!(^^)
by チョビ(H.YAOITA) (2013-12-03 13:00) 

風来鶏

その夜の出来事は、泡と消えてしまったのですね(^^;;
Gone with the bubble!?
by 風来鶏 (2014-08-26 12:56) 

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