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NO.23 旅の職人その⑨旅の記録 [人生とは死ぬまでの暇つぶし?]

 旅をするとき、みなさんはその記録をどのようにとっているのでしょうか? 

自分は、必ずメモ帳を持って歩きます。

メモ帳を取り出す時間がもったいないときは、持参の地図の上に書き込んでゆきます。

ちかごろはコンパクト・デジカメもメモ帳代わりに使っています。

歴史的建造物や遺跡のまえなどにある長々とした説明板は、メモを取らず写真に収め、

家に帰ってから「資料ファイル」に入れ、外付けハードディスクに保存しています。

まだ、デジカメがないころの資料集めは、かさばって大変でした。

小学校生のころに書いた作文や日記、大人になってからの雑誌への寄稿文や手紙、新聞の切り抜きなど、

何の役にも立たないのに捨てきれず、

ジュラルミンの大きなケースに入れ、後生大事に保管しています。

これも暇を見つけては、スキャナーで拾い少しずつデジタル化していますが、どちらにせよ無駄な作業です。

無名の私ですから、死んだら妻子に即、捨てられる運命にあるのですから・・・・。

そんな資料の中から拾い出して、きょうのブログに代えます。

これは、「ピーマン」という同人誌に載せた30歳前半のときの拙文です。

成田では連日、ジュラルミンの盾を持った機動隊と空港建設反対派が激突していたころの紀行文です。

内容はともかく同人誌の名前が気に入っています。いかにも自分らしいからです。

「種はあっても中身がない」 のです。

よろしかったら、続きを読む をクリックしてみてください。

 SS千葉寺の大銀杏3.jpg

現在の千葉寺大公孫樹

先年倒れた鎌倉の公孫樹より大きい。乳頭は1メートル以上ある。

 
銀杏1.jpg
公孫樹が大きすぎて下から仰ぎ見ても空が見えない
 
 
 
 
 
 
 
 
 

                       千葉寺散歩

 髭をはやしたら喜劇役者の故・横山エンタツにそっくりの男が地面にへばりついている。じっとしているわけではない。いまどきめずらしいラクダのシャツを着てせっせと境内の草取りをしているのだ。ズボンの前チャックは熟れきったアケビのようにパックリと開いたまま。化粧品名の入ったビニール袋を少しづつ移動させては黙々と雑草をその中に入れている。寺男らしい。

 鉄筋コンクリート造りの本堂は銅ぶきの屋根に覆われ、金ぴかの懸魚(げぎょ=飾り金具の一種)が目だつ。柱、垂木(たるき)ひじ木、蟇股(かえるまた)にいたるまで、鮮やかに塗られた朱色が、まだ改築されて間もないことを語っている。

 本堂の右手前には天然記念物の大公孫樹(おおいちょう)がある。一本の木でありながら森のような枝ぶりと幹の太さは圧巻である。樹の下から仰ぎ見ても空は見えないのだ。ごつごつとした根は地中からはみ出して渓谷の岩のようにも見える。傍らの三つ葉つつじの花に黒アゲハが飛び交い、さわさわという風の音に混じって野鳥の声が耳に届くほかは参拝客のいない静かな境内である。

 拝殿につづく石段を4,5歩登って立ち止まった。階段わきの擬宝珠(ぎぼし)の美しさに魅せられたからだ。円柱の先端に玉ねぎを載せた格好で暗褐色の光を放つ。触れてみると初夏の日差しを浴びて生暖かい。賽銭箱の前に進んでお堂のなかを覗いたが暗くて何も見えない。目を閉じてみる。嗅覚神経をフルに作動させてみたけれど開山どき(奈良・和銅2年 西暦709年)の匂いはない。祭られているはずの弘法大師がいる気配もない。

 ふたたび目を開け身を乗り出して内部を見渡す。と、こんどは目が慣れたせいか祭壇前の柱の根元に扁額のようなものが立てかけてあるのに気づいた。「良い子はお堂の中で遊ばない」と書いてある。それなら・・・と喜んであがり込んだ。ひんやりとした湿った空気が頬をかすめ、イグサの匂いと線香の香りがうまく中和して鼻を刺激する。広々とした畳の本堂は実に気持ちがいい。心わくわく、目キョロキョロである。その時、暗がりの壇上からこちらをじっと見つめている仏像と目が合ってドキッとした。なかにお大師様は、おわしたのである。とっさに出たことばは畏れ多くも「弘法、あ・そ・ぼ」だった。

 「お大師さん、毎日話し相手もなく寂しいでしょ、 ここに来る人ときたら皆、頼みごとをするばっかりで五円、十円の小銭であなたの知恵とお恵みを買おうとするんですよね。しかも現代の俗人たちは礼儀を知らない。頼みごとをするのに、子供が蛇に石をぶつけるみたいにお金を遠くから投げつけるんですからね。正月などは賽銭箱を外れ、お大師さんのからだに直接ぶつけるそそっかしい者までいるんでしょ。自分たちだけは丸まげに晴れ着姿とめかしこんで、寄ってたかって金つぶてを投げるあの行為、ぼくにはどうも理解できないんです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」仏像は何も語らない。さらに続ける。「チーン、コチーンと投げつけられて痛いでしょ。怪我をする時もあるんじゃないの? ジュラルミンノ盾はいま成田の方でたくさん無駄遣いされているようですが、本当はあなたが使うべき物です。ぶつけられてじっとしているなんて気の毒だなあ。 ” 同行二人”です。一緒に遊びましょうよ」と言ってから祭壇に向かって手招きをしたが何の反応もない。つぎに軽くジャンプをしてからでんぐり返りをしてポーズをとった。コマネチの床運動を真似たつもりである。すると天井から下がった金箔の飾りが足に触れてシャラリと鳴った。お大師さんがやっと笑って拍手を送ってくれたのかと思った瞬間、                     

 「だれだ! このバチあたりが・・・なんだ・・・ 大人じゃないか!」

 つかの間の遊びは終わった。驚きとあきれ顔で傍に立っていたのは先ほどの寺男である。お大師さんとの遊びから、寺男との緊張した雰囲気に変わった。ラクダのシャツによれよれのズボンに対峙する自分はTシャツにジーパンといういでたち。衣装の上では互角だが、明らかにこちらは不利。いざ格闘技に突入と身構えたところでお大師レフリーのストップがかかったらしい。

 寺男は急に穏やかな口調となった。こちらを哀れな精神異常者とみたのかもしれない。照れくさかったが正直に事情を話したところ相手は納得してくれた。ものわかりのいい寺男だと思ったら、この人は当寺の住職だった。お互いの誤解を大声で笑い合う。その笑い声が堂内の空気を動かし金箔の飾り物が静かに揺れた。

 千葉寺を訪ねた理由は、三年前に妻子に無断で3か月の長旅をしたときにさかのぼる。旅の途中偶然立ち寄った徳島県の安楽寺住職・千葉氏から「この寺の祖先は、きみの住む千葉を追われて、この地に流れ着き開山したものである」との話を聞き、これを今回詳しく調べたかったからだ。千葉寺のエンタツ氏は、こちらの質問に対し一つひとつ丁寧に答えてくれたあと

 「向こうさんでは千葉寺の公孫樹は大きい、なんて話していただろう?」という。

 一見的外れで、いい加減のようだが、じつに味のあることばだと思った。たしかに往時を知るであろう公孫樹は、あまりにも大きくなりすぎた。坂東三十三か所めぐりの本山にふさわしい住職に会えて楽しい一日だった。[サッカー]

[後記] こんな文章は今では古典に近いものになりました。ラクダのシャツとか横山エンタツといっても若いかたには、何のことだかわからないのでは?と思います。

[意訳] 

1.ラクダのシャツ:ラクダの毛色をした綿の厚手のシャツ。秋から春先に着る防寒下着。

2.同行二人(どうぎょうににん):四国八十八箇所の霊場めぐりのお遍路さんたちにはいつでも真言密教の開祖空海(弘法大師)がついて一緒に歩いてくれている。目に見えなくてもそう思う人のそばに必ずいてくれている‥のだそうです。そこでわたしは、逆にお大師さんを癒してやろうとお誘い申し上げたつもりなのですが・・・。

3.横山エンタツ:大正・昭和期の漫才師・俳優。花菱アチャコとのコンビ(エンタツ・アチャコ)で、それまでの古典的な舞台芸能である「色物漫才」に代わり、「しゃべくり漫才」へのムーブメントを作った。現在の漫才スタイルの元祖。芸名は出身地の兵庫県三田市横山から取った。エンタツは、東京浅草蔵前にあった煙突(エントツ→エンタツ)に似ていたから。弟子には横山ノック、横山やすしなどがいる。ちょび髭がトレードマーク。

 

SS懸魚.jpg
懸魚とは上図の雲形をした部分
 
SS蛙股.jpg
蟇股
どちらも改築から40年を経て現在は色落ちしている。

 

 

※ 体調を崩し、blogの更新が遅くなっています。寝る直前にパソコンに向かうのは、体に良くないことを知りました。

 

 

 

 

 


タグ:紀行文
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コメント 4

谷津ひろし

 ブログ拝謝。 最近ブログが出ないので心配していました。
やはり 体調よろしくないとの事、クレグレモご自愛下さい。

 安楽寺の開祖は何故千葉(寺)を追われて四国に行ったのでしょうか?
 確かに千葉寺には立派な大公孫樹が有りますね・・。
40年前に行かれたのですね。

 次のブログ楽しみにしています。 ご無理をせず宜しく。
by 谷津ひろし (2013-11-13 16:56) 

koh925

拝読しました、読み進めるうちに引きずりこまめる文章でした
私は何の記録を残していないのが恥ずかしいです
by koh925 (2013-11-14 14:08) 

セイミー

先日はご訪問いただき有難うございました
by セイミー (2013-11-17 15:10) 

チョビ(H.YAOITA)

自分の気持ちをよく写している文章で羨ましいです
私の場合、昔の文章を読んでも
一体何があって何を思ったのか、よくわかりません
読んでも愛着が湧かないので、だいぶ捨てました^^;
by チョビ(H.YAOITA) (2013-11-26 01:01) 

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