SSブログ

日本の聖火 [長く生きてりゃ・・・]

昨年最後のブログで予告しました日本の聖火について記します。

比叡山 根本中堂 不滅の法灯2.jpg

比叡山根本中堂の「不滅の法灯」 灯篭は3基ある。

根本中堂 不滅の法灯.jpg

不滅の灯篭の内部

SS桜本坊花祭り護摩焚き.jpg

 奈良吉野桜山本坊花祭りの護摩焚き

ちょっと堅苦しくして文脈が乱れましたが、日本の聖火とはどういうものかを書きました。

できるだけ手元の文献と現地訪問時の資料を調べなおしてはありますが

わたしは専門家ではありません。したがって誤謬があるかもしれません。

あしからず・・・。

よろしかったら  続きを読む をクリックしてみてください。

日本の聖火

 昨年12月、最後のブログでオリンピック聖火について触れてみた。きょうは日本の聖火について記してみる。理由は日増しに記憶力が衰えているので備忘録のつもりで書き残してみたいと思ったからだ。
 まず聖とはなにか? から展開してみる。
  辞書を開くと聖(せい)、とは清らかで尊いこと。悪、または俗(世俗)の対義語である、と書いてある。聖(ひじり)と読ませる場合は、①「日知り」の意で、日のように天下の物事を知る人、②物事にすぐれた人、③天文暦数に長ずる人、④多くは
諸国を遊行する仏教僧とある。ここでは詳しく触れないが、個人的には仏教僧だけではなく①~③の聖も多かったとわたしは思っている。なぜならまだ仏教が伝わらない以前から滅罪のために山にこもり己に苦行を課した遊行者(道教系、修験道系、神道系、陰陽道系、宿曜道系)がいて、行で得た験力(げんりき)で治病や予言、雨乞いなどの奇蹟を起こした者たちも聖に含まれると思うからだ。要するに自然科学をはじめ広い知識と厳しい精神修行を重ねた高貴で徳の高い人を聖(ひじり)と呼んでいたのである。
 

 聖の遊行は、空也、一遍(ともに念仏聖)、西行、高野聖がつとに有名だが、白山、立山、羽黒山など多くは山岳信仰に重要な役割を果たした修験者も聖と呼ばれていた。この聖たちに共通するものは、修業や神事のなかで火を使った清めの儀礼をしていることだ。imagesCA3XYSSE.jpg


 

 奈良吉野山の山伏や都下・塩船観音などで見たことがあるが、杉や檜の榾(ほだ)を広場に積み上げ火を放ち、護摩を焚く。信者は残り火のなかを裸足で渡る「火渡り」の儀式は今なお、あちこちに残る。

 自分は信者ではないが長年出羽三山登山を続けてきた。ある年の大みそかに「松例祭」という年越しの神事に立ち会ったことがある。ここでも位上、先途という過酷な百日行をした二人の聖が仕切って、いろいろな神事を執り行うが、そのクライマックスは大松明引きと火の打ち替え神事である。どこも火無くして神事は成り立たない。これらの聖は火を治める者として古代から崇敬されていた証だ。
 こじつけかどうかその真意はわからないが、ある高名な民俗学者は、聖(ひじり)の語源は、火を治める者が国を治めるところから「火治(ひしり)」ではないかと言っている。山岳信仰は仏教が日本に伝わる前からあったわけで、上記の松例祭を見ると火と人間の深いかかわりがつぶさに読み取れる。
                               

yjimage[2].jpg 羽黒山を開山したのは、第八代蜂子皇子という人。左図のように日本人離れした赤黒い皮膚に飛び出るような大きな目が印象的な皇子だ。(一説には日本人ではなくペルシャ人では?と言われている。後述するがこれは誠に意味深長である。)この開祖の業績はいろいろあるがわたしが最も興味を持ったのは、奇病の原因となるツツガムシ退治だ。ツツガムシは、年に一度、数時間だけ生殖のため地上に這い上がってくるダニの一種だが、この虫に刺されると高熱を発し、死に至ることもある猛毒を持った虫だ。これが庄内地方の民を苦しめていたのだが、蜂子皇子は、大松明を燃やし原野を焼き払って退治したらしい。松例祭にはツツガムシに模した大藁綱を聖が村人に向かって千切っては投げる。これを村民は奪い合って家に持ち帰り玄関に飾る。(害虫退治ではないが、草を薙ぎ払って野火を征した日本武尊に似ている。)

 蜂子皇子が焚いた火が1400年の昔から昭和24,5年まで羽黒山奥の院荒沢寺の常火堂に延々と不滅の火として燃え続けていた。残念ながら大戦後の荒廃で消え失せている。

 今もなお燃え続けているのは最澄が焚いた比叡山根本中堂の「不滅の法灯」と、安芸の宮島の弥山(みせん=標高535m)にある空海が修行の時に焚いたという「不消霊火堂」(きえずのれいかどう)だろうか。この二つに共通するのが「密教を学んだ」最澄と空海がお焚き元ということ。密教は護摩を焚くからだ。imagesCA69QB4D.jpg

 栃木県鹿沼市にある古峰神社の廊下の炉で炎灯ではなく燃え続ける炭火「御神火」がある。まだほかにも熊野の上倉神社などにも1400年不滅の火があるらしいが、詳しくは知らない。

 根本中堂の不滅の法灯は、信長の叡山焼き討ちで一度消えている。しかし、焼き討ち以前に円仁(慈覚大師)が叡山の火を分灯してあった山形県の山寺・立石寺から戻してもらって火継ぎをしているから元火はおなじである。
そんなわけで立石寺にも不滅の火はあった。しかし、こちらは火災で常火堂が焼失したため絶えてしまった。

山寺 奥の院 普照燈.JPG山寺奥之院普照堂
 山寺には叡山から移す前から不滅の火はあったようだ。立石寺は、もともとは山岳信仰の霊場で、仏教伝来前から信仰の中心が「不滅火」であったことが分かっているからである。かつてはここで大榾(おおほだ)が焚き継がれていたのである。

★★立石寺の法灯.JPG

上図は現在の法燈


 面白いことに先の話と矛盾するのだが立石寺の常火は羽黒山から移されたという伝説を持つ。叡山から円仁が分灯する前から実際には灯っていたという言い伝えもあるからだ。よって羽黒の火はいかに古いかがわかる。社会環境の変化で火を消してしまったのは誠に残念である。

 事情はともあれ、消えてしまった神聖な火、今なお燃え続けている火、これらが「日本の聖火」と呼ばれるものなのである。弥山の古の灯火は、いま広島の平和公園の灯火に分火され新たな使命のもとに燃え続けている。日本民族の聖火を絶やしてはなるまい。これを焚き継ぐことは大変な労苦が伴う。羽黒山ではこの役目を負ったのが「聖(ひじり)之坊」であったそうだ。が、それを支えたのは強い信仰の裏付けがあったからであろう。
 羽黒山のふもとの町・手向(とうげ)に「大聖坊」という坊があるが、ここの神官が代々その任務を司ったのであろうか。

 最後に本題とは少しずれるが山伏(講)の多くは真言宗系の醍醐寺と天台宗系の聖護院のどちらかに属していることを述べたい。(註:先に述べた吉野の山伏は上記二つに属さない)
 これは護摩を焚く(火を扱う)密教と深い関わりがあるようだ。密教のルーツを読み解いてゆくと、中国の祆教(けんきょう)、インドのパーシー教(ゾロアスター)、そして最後にペルシャ(イラン)の古代宗教ゾロアスター教に行き着く。この宗教は、別名「拝火教」ともいわれ火を神とする。羽黒山の日本人離れした蜂子皇子がペルシャ人かも、と言われているのはこのあたりに起因するのではないかと思う。これはあくまで筆者・暁烏英の私見ではあるが・・・・。[サッカー]

[蛇足]
①ペルシャ(イラン)のゾロアスター教は、サーサーン王朝時代は国教であった。が、その後イスラム教の勢いに押されてすたれてしまった。インドに渡ったゾロアスター教は、残った。ヒンズー教が多数を占めるインドで少数派ではあるがカースト制度の最上級に位置するのがゾロアスターである。インドの政財界を牛耳っている。アジア実業界の巨人といわれる、タタ・グループの総裁ラタン・タタ氏もゾロアスターである。現在全世界に信者数は10万人程度。親がゾロアスターでない限り入信できない掟がある。

② 日本の密教とゾロアスター教の相関
 調べてみると古代日本へのゾロアスター教伝来は未確証であり、ゾロアスター教の信仰・教団・寺院が存在した事実を示す物証はない。しかし、ゾロアスター教は唐時代に中国へ来ており(祆教)、また日本には吐火羅や舎衛などのペルシア人が来朝していることから、なんらかの形での伝来が考えられる。イラン学者伊藤義教先生によれば、来朝ペルシア人の比定研究などをふまえて、新義真言宗(真言宗智山派)の作法やお水取りの時に行われる達陀の行法は、ゾロアスター教の影響を受けているのでは、と言っている。・・・・・・・・・・以上のような経緯から先に述べた「蜂子皇子伝説」にロマンを感じるのはわたしだけだろうか。

③国外に見る火渡りの儀式

01.jpg

お国変われど・・・・スペインの聖マントニウス祭り。

大榾を燃やした上を人馬150騎が渡る儀式


タグ:聖火
nice!(33)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 33

コメント 2

谷津ひろし

 1400年前からの火が2ヶ所で途切れず燃え続いているとは、ビックリでス。 凄いことです。 太陽 日 火 聖 との関係 関連はあるのでしょうか? 


by 谷津ひろし (2014-01-16 07:02) 

Chobi.H.YAOITA

茶の湯の手前の中で、キリシタンの影響を受けているといわれている動きがあります。茶巾という白く小さな麻布で茶碗を拭くのですが、これが聖杯を拭く動きによく似ているそうです。

イランの人が来てその名前が今に伝わっているのですから、その人が何か大きな影響を与えたことは間違いないと思います。確認するのは難しいですが、想像すると楽しいですね(^^)
by Chobi.H.YAOITA (2014-01-18 20:47) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0